「救急災害薬学」は、薬学の専門知識を基礎に、救急・集中治療、災害医療や医療過疎における緊急な薬物治療、医薬品情報の提供や支援、医薬品や医療用物品の供給、患者や住民の健康管理などの医療教育や研究を主宰する臨床系の学術分野です。
その範囲は、薬学に留まらず、救急や災害対応に際してのコミュニケーションに不可欠な情報・通信を扱う「工学」などを含む『自然科学』、医療行為や対応業務に関する法令や政策・制度の礎である「法学」や、医療組織や業務の円滑な運営を裏付ける「経済学・経営学」を含む『社会科学』など、広範な学問領域を網羅します。
「救急災害薬学分野」の開設は、岡山大学が国内初となります。
「救急薬学」は、「多種多様な救急疾患に対し、救命を目的とした薬物治療を科学し、一人でも多くの人の命を救うために実践される薬学」と定義されます。
救急医療では、生命の危機に瀕した多種多様な病態を有する患者が救急搬送され、全ての症例が重症かつ緊急を要する状態であるため、先ず命をつなぎとめることが第一目標となり、そのためには、患者の状態の把握や外科的な処置とともに、患者一人ひとりに適した高度な「薬物治療」が必要となります。
その実践のためには、薬物動態、毒性薬理、循環薬理、呼吸器薬理、輸液栄養などの「臨床薬学」を基盤にした科学的思考と、外傷治療、感染症治療、社会薬学などの「社会薬学」、そして「臨床薬学」と「社会薬学」の高度な融合が不可欠と言えます。
近年は、患者の容態の急変に遭遇した場合でも、単に受診勧奨するだけでなく、適切な「臨床判断」を行い、救命活動に積極的に関わることが求められてきています。
救急薬学は、もはや救急医療に従事する薬剤師だけに必要な知識ではありません。 患者の命をつなぎとめるために行動できる医療スタッフの一員となるためにも、救急薬学はすべての薬剤師に必須であると考えています。
緊急性を求められる現場対応という意味では、救急医療も災害医療も"しなければいけないこと"は基本的に同じです。
一方で、人材や物資が一通り揃い、マニュアル通りに動くことを基本とする救急医療に比べ、災害医療は人材も物資も不足する中で、現場状況を判断し、指揮命令系統を確認しながら連携し合い対応しなければなりません。
また、災害フェーズは超急性期→急性期→亜急性期→慢性期と変化し、さらに発災地域や季節など様々な要因によって医療ニーズや医薬品需要も異なります。
「災害薬学」は、患者への適切な薬物治療の実施にとどまらず、避難施設の衛生管理など二次的健康被害発生の防止、災害対応にあたる多職種との協働・協調、さらには災害時の円滑な医療活動実施への平時の備えなど、災害における広範な薬剤師活動を対象とする学問領域です。
●医療救護所の設営 ●医薬品・医療材料等の供給・管理 ●調剤と薬物治療管理(調製が必要な薬剤対応、移動薬局車両※1での業務を含む) ●薬物治療管理(特定の疾患や医療機器の使用など、薬学的に注意を要する患者管理) ●被災者・患者への医療活動(服薬指導、ファーマシューティカルトリアージなど) |
●避難施設の薬事衛生管理(感染症対策) ●被災地・避難施設等悪環境での薬事・健康指導(粉塵やアレルギー疾患対策、エコノミークラス症候群対応などを含む) ●被災薬局・医療施設の営業継続、復旧支援 ●医療実施状況の把握と、医療・災害対応関係者との情報共有 ●業務継続計画(BCP※2)の作成 |
※1 通称:Emergency Pharmacist Vehicle
※2 BCP:Business Continuity Plan
現在の医療は、そのほとんどを、デジタル機器やインターネットサービスなどの高度な情報環境(ICT※1)と、それを支える携帯電話をはじめブロードバンド通信インフラに依存しており、広域災害などで大規模な通信障害が発生した場合、医療活動に重大な支障を及ぼす恐れも否定できません。
また、山間地・辺境地・島嶼部や海上などでは、医師や薬剤師などが常駐しない医療過疎状況が存在し、ICTの利活用不足や通信インフラの不十分さとも相まって、都市部のようにタイムリーで適切な医療や健康支援を受けにくい状況にあります。
「臨床ICT薬学」領域は、「救急災害薬学」が対象とする薬局や薬剤師の諸活動を、平常時⇔災害時において「シームレス」かつ「円滑」に実施するために須要なICTの活用開発や社会実装の支援、ならびに救急・災害医療に携わる薬剤師などの人材の育成を目的とするもので、「薬剤師活動に必要な患者・被災住民情報の収集や評価」「医薬品、医療器具・機材などの供給や管理」「医療活動の継続に必要な薬剤師人員配置や薬局設備復旧支援」の3つのミッションを軸に活動します。
[A]薬剤師活動に必要な患者・被災住民情報の収集や評価 | [B]医薬品、医療器具・機材などの供給や管理 | [C]医療活動の継続に必要な薬剤師人員配置や薬局設備復旧支援 |
ウェアラブルをはじめIoT※2機器の活用による、バイタル、健康、生活、環境など薬剤師活動に必要な患者・被災住民情報の収集、および評価の実施 | 救急・災害時での医療ならびに薬剤師活動に必要な物品やサービスの供給・管理 | 救急・災害時での必要な薬剤師人員(マンパワー)の配置、ならびに薬局の設備(インフラ)の復旧による、円滑かつ継続的な医療活動実施の支援 |
※1 ICT:Information and Communication Technology
※2 IoT:Internet of Things
【鹿田キャンパス】
〒700-8558
岡山県岡山市北区鹿田町2-5-1
【津島キャンパス】
〒700-8530
岡山県岡山市北区津島中1-1-1